ボク



何も聞こえないわけじゃない。ただ、確かなものは何も聞こえない。聞こえないのだ。

導いてくれなくてもいい。

意味がなくていい。

きっとそこにあるだけでいい。


モノクロの雑音とモノクロの世界。

何も分からない。

人間と景色の区別も付かない。有機物と無機物が白黒に溶け込む。灰色に混ざり合うことなく。


空気を吸っている。肺が酸素を物欲しそうにしている。右頬に霞むそよ風。

それだけは確かに、少しだけ感じ取ることができる。


誰か教えて欲しい。

僕は何なのだろう。

何のために生まれてきたのだろう。

これでは、何もかも分からないまま、吸いたくもない空気を吸って、食べたくもないご飯を無理やり口に突っ込まされ、ただ淡々と時が過ぎていく。

だったらいっそ、死んだほうが…


光のある窓の方を向く。確かな眩しさと白い視界を感じた。

ひたすら眩しくて直視出来い。


そうか、ここならば外に繋がっている。だから、飛び降りれば死ねるかもしれない。

僕は吸い寄せられるように光のある方向に顔を向け、起き上がると身体ごと引き寄せられた。


風を感じることは出来る。光も、感じることは出来る。

何故だろう。それだけで、何故だか胸が熱くなった。


嫌だ、嫌だ、嫌だ、こんなの嫌だ……。



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。



きっと心の何処かではモノクロのままでいいと思っいる。それは、自分の意思だ。

色づいた瞬間僕は、僕はもう、この世から消えてしまうような、消されてしまうような、心だけではもう抱えきれなくなってしまうのだろうと分かっていたから。


空が澄みすぎていて、心に漠然とした不安だけが居座る。


死を間近で感じると異様に興奮する。

細胞を機能しなくなるまで最大まで絞り出して腐らせて死んでいくのではなく、寿命を幾多の手法で無理やり縮ませようとする行為は、何だか命を弄んでいるようで、あまりに楽しくて興奮するので、股の方が熱くなるのを感じていた。

きっと、死にたくない気持ちに無理に抗うのはゾクゾクするのだろう。

きっと、お金持ちになったらトリュフの石鹸なんかを使い出しては、口出しをするのだろう。


それが、人間なのだ。きっと。 


夜景


夜の景色を見ようとした。

でも、部屋が明るくて、何も見えなかった。

窓ガラスに自分の姿が反射する。

嫌気がさしたので、僕は、その姿に殴りかかった。

窓ガラスの破片が宙を舞って、僕は血まみれになった。

弱気な僕は、自分を殺すことなんて出来なかった。

ガラス越しの空虚な自分を、一層愚かに感じた。


笑えば笑うほどおかしくなって

心がボロボロになることにも気がつけない。


何者にもなれない僕を

誰かに愛して欲しかった。


真夏のスイカ


もう好きじゃなくなったラムネジュース

しょっぱくしみる真夏のスイカ

まるで、昨日のことみたいだ

届かなくなった君の声

青い青い空の向こう側


泣きたくなったら泣けばいい

でも今はなぜだか、泣けないんだ

どうして、どうして

脳の隅っこの、夏の風景

削り取られていくような感覚を

全部全部吸い取って丸めて

ゴミ箱に投げつける

その瞬間

私の中のパズルが、バラバラに砕けた

泣きたいよ、ああ、泣きたいよ

でも、泣けないよ

どうして、どうして

届かなくなった君の声

遠い遠い、夏の彼方


私はヒーロー


地球を救うため

私は私を殺すの

そしたら、みんなのヒーローになれるでしょ

認めてもらえるの

最高なハッピーエンドさ


お父さん、お母さん

今日も私のために

大好きなお肉と手料理をありがとう

でもね、もう充分すぎるの、私には


だってね、私は

もう、何でもないから

自分自身を殺したから

もうね、誰でもないの

あなたの知ってる私じゃない


死のう、いまなら

どんなルールだって法律だって破れる

もう誰にもとらわれない

いまなら、死ねる気がした


全速力で階段を駆け上がる

死と隣り合わせの場所、屋上へ

涙を押し殺して、私は向かう


覚悟なんていらない

余計な気持ちは全部捨てる

確かなのは、その場の気持ちだけ


隕石が降ってきたら

大声で笑ってやる

全員死んだら

紛れも無いハッピーエンドさ


カミソリ雨


いつからだろう

神様なんていないと口にしてしまったのは

奇跡などないと思い込み始めてしまったのは


朝日が昇ったらゴミ置場のゴミ袋を漁って

使えそうな装備を搔き集める

此れから旅に出よう

ギリギリの自分護るため

飢えた幼虫に侵食される前に


大量のカミソリの上を歩く

僕が僕でいるために

身体が切り刻まれるのを五感で感じながら

視界を転がしイきつづける

赤い赤い体液の数だけ満たされる心がある


大量のカミソリ雨を浴びる

死ねないまま 道を歩き続ける

身体のどこかが欠けるのを感じながら

僕が僕である事を認める

失えば失うだけ満たされる心がある


ねぇもう死ねないの

全てが赤く染まる感覚が

忘れられないの



何も知らない


学校の屋上から

ビー玉をばら撒いた

それは輝く星屑のように

太陽に反射した


ゲームは終わりにしましょ

そろそろ夜がくるから

夜になると恐ろしい魔物が息をする


1人で描いていた

大きな空にたくさんの星

いつか届くかもしれないと

ずっと夢見ていた


私はまだ大人になれなかった

地上から宙吊りになったまま

その糸は切れないまま

私は夕暮れを彷徨うの


大きい世界は知らないの

小さい世界も知らないの


蟻が何かに潰された時のドス黒い体も

星が破壊された時に飛び散った小さなカケラも


何も知らないまま大きくなるの


黄昏時


黄昏時…

それは禁断の果実のような

赤くて生々しくて、まるで魔法みたいな時間

大人になれない少年少女は、お互い確かめ合うように身体を寄せ合う

歪んだその世界では、何をしても許される

太陽が沈むまでは…


本当は、早くその空間から抜け出さなくてはならない

そこにずっと居てはならない

そこの空間は、禁忌だから

ずっとずっと大人になれないまま時間は止まり

太陽は沈まなくなってしまう


そうなってしまったらその空間に依存する子供達を消さなくてはならない

そこは、禁忌、つまり、いけない事だから

抹殺しなければならないのだ


赤くて甘くて美味しいりんごの果実は

禁断の赤い果実

それはまるで、黄昏時のように妖しくて美しい

そして、危険なもの