明日も




朝目が覚める。


何もするあてもなくフラフラ外に出る。


また帰る。


寝る。



そんな事をくり返す。



時が流れるとともに鼓動を刻み、生きていたくもない命を繋いでいく。

どうせ死ねない事は分かっているから。



命を繋ぐ。


今生きている生命はそれが役目なのかも分からない。


朝起きること、歯を磨くこと、箸を使ってご飯を食べること。


何気ない事が次の時代へと繋げ、歴史を作る。


毎日毎日、無性にお腹だけは減り、食べても食べても何も満たされない毎日。



僕は何のために生きているのだろう。

そんな質問しても


そんなん自分だって何のためにも生きてないよって

ほとんどの人がそう口にする。


分からない方が良いことなのかもしれないし、はたまた探し当てのないものなのかも分からない。



自分は何ですかと聞かれて

そこらへんに落ちてるタバコの吸殻ですというと

いつも笑われる。


それが、一番伝わりやすいかなと、優しさでそう言ってあげてるのに。


ああそうかい、俺はそんなタバコのポイ捨てと4年間も付き合わされてるのかい。

そう言われて




ああもう自分、死んでやろう。



そう思った。



何度も何度も何度も思う。

でも本当は死にたくないし、死ねないし、弱い生き物。


人間の形をしているのが精一杯。


死ぬのなんか、怖いに決まってる。

きっときっときっと、死ぬことは素晴らしいことなのに。


そう思って死んでいけたらどんなに良いのだろう。



そう思った瞬間に、きっといち早くジサツするのだろう。

きっと明日も明後日も、1年後も10年後も


僕は消えて無くなりたい。



最後のページ


赤く燃え上がる隕石が飛び込んで来た

街行く交差する人々

あちこちからざわめく声

まるで邦画みたいに揺らぐ世界


限られた世界を浮遊する

終わりのある自由を敬愛する

今日も僕は生きた幽霊


ねぇこの世がもし

この世界が本当に消えてしまうなら

なんて馬鹿みたいだったのだと

一度でも笑ってみたかったのに


僕の行く道を照らして

帰れないように

戻れないように

宇宙船のような

一方通行の道を見つけたかった


赤く燃え上がる世界は

神秘的で綺麗だった

一瞬の幻

僅かな物語


分かち合う



情を入れてはいけない。


これは、ルールだ。

汚れなきふたりが、ギリギリの関係を保っていくための、ルール。


認められようと考えた瞬間

そのふたりの世界は滅んでしまう。


でも人間なら誰しも、生きていくために誰かに認められたいと思うのは、生理的な現象である。当たり前のことだ。

弱くて愚かな生き者なのだ。


嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い


今日もこの言葉を聞きながら生き絶えそうになるのを耐える。

彼のその言葉は聞き慣れた。だからもう、良いんだ。


我慢したら、大丈夫?今日も頑張ったね、と、優しく抱きしめてくれる。

だから、どんな事も頑張れる。耐えてみせる。

死ねって言われたって、家族に認められなくたって


"例え、君が俺を嫌いだって"


爪だって剥いでみせる。

虫だって食べてみせる。

トイレに顔を突っ込んでみせる。

命令された事は全部受け入れる。


俺は何をやっても死なないし、死ねないから。

一瞬でも死んだ方が幸せかもしれないと、何度か思う。


弱いから、誰もが思ってるほど強くないから、だから、そうするしかないんだ。



でも、今日は…


「ねぇ、いつもみたいにさ、抱きしめてよ…。」


「は…?何考えてるの、そもそも、ルールがあるだろ、僕たちの…。」


待って、待って……、ねぇ。


「な、なんで…。」

なんとなくわかってる、わかってるけど。


「飽きた。君って何やっても物欲しそうにするんだもの、やり甲斐がない。もう君がいなくても、生きていける。」



そんな…………。


そう、俺はルールを破ってしまっていた。

取り返しがつかなくなった、どうしよう。



「俺は……。君のためなら、何だってやってみせる。」


そこに散らばってる刃物の中から適当に刃の向いた錆びてるカッターを持った。

そして


ビチャ、、、

ビチャ、ビチャ、ビチャ


ピシャッッッッ


自分の左手首を斬り始めた。

何度も何度も、繰り返し繰り返しカッターに力を入れ、手前に引く作業を繰り返す。


彼の頰に血飛沫が飛んだ。

彼は驚いて、その場で動きが止まった。

自分から目を離さなくなった。

目が真っ白になっているように見えた。

命令以外で自分を傷つけたのは、初めてだ。


痛い、痛い、痛い


斬った直後に、神経が空気に触れた傷口に染みて、あり得ないくらい痛くてビリビリしたものが手首に残る。

濃く赤くどろっとした液体が腕に、地面に滴った。


でも、斬るのをやめなかった。


「俺は、何だってやってみせる。君の心を満たすために、楽しませるために、何だって、何だって、やってみせる。」



ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、ウキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ


もう、何も、俺は、怖くないんだ、そうだ、そのはずだ。

なのに……。



「だから、嫌いなんだよ。」


その言葉を捨て、彼は去っていった。



俺は、その場で倒れこむように座った。

脚に力が入らなかった。



馬鹿らしくなった。

涙が溢れてきた。止まらなかった。


何度斬ったって、何度も何度も斬ったって、こころは満たされなくなっていた。



どこに向かっているのだろう。

分かち合うってこんなにも難しい事だっけ。




独りぼっち


彼は血が好きみたいだ。

俺の血を見て、それを舐めて、味わって、興奮している。

その他にも、生き物の悲鳴とか、生き物が痛みに耐えてる姿とか、好きらしい。

だから、俺はその道具としてしか見られていない。性処理道具。

でもいいんだ、自分という人間が否定されないだけ、幸せなんだと思う。


「他人が不幸になった方が幸せ。」

彼は当たり前のように、そう言った。

もちろんそんな言葉、周りからは煙たがられる対象となった。

皆んな彼を嫌な目で見る。

あいつ、嫌なやつだって。

彼は、間違ってるって。

でも俺は、そうは思わなかった。

きっと、誰だってそんなこと思ったり、一度でも世の中や人生をクソだと思ったりするはずだ。

誰もが思う事なのに、皆否定するんだ。

そんな事思った事もない、そんな考えは突拍子もないとでも言うように。


皆んな、嘘つきだ。

誰もが、幸せをアピールする。

等身大より大きくなろうとする。

正論の中だけで生きようとする。

自分を偽ってまで、そうするのだ。


だから、僕は彼の言葉に心を打たれた。

彼は、強いと思った。

だから、独りぼっちなんだ。

凄く、寂しいのだ。


どうして誰も気づいてあげられないのだろう。

彼は、孤独なのに。

最も人間らしいのに。

いつも1人で戦ってる。

だから、支えてあげたい。

力になりたいのだ。


ありのままでいてほしいから。


よわむし。


僕は、いい奴にもわるい奴にもなれなかった。

ただの「弱いやつ」でしかなかったのだ。

無力で無価値でしかもすぐいい気になる。余計な感情は、虫より頭も悪い。

そんな僕には「弱虫」という言葉がお似合いだ。


虫、虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫。


今日もこの文字を顔に書いて僕は、学校に行く。

目に見えないナイフ、それはあまり慣れない。

きっときっと、誰も僕のことを認めてくれない。認めてもらえないのだ。だって、その刄は僕にしか見えないのだ。幽霊を信じてもらえないのと同じだ。


本当は、本当は脚が折れてるのに。手が千切れてるのに。誰も、僕のことを、辛いね、とは言わない。

だって、脚は折れてないし、手はちゃんと付いている。

どこからどうみても、健康な身体つきだ。


だから皆は、口を揃えてこういう。



弱虫、と。


まあ当たり前だよね。

この世の中の真実なんか、目に見えるものではないことは、誰もが分かっているはずなのに。

目に見える確かなものでない限り、誰も信じるわけがない。そんな誰でも分かる当たり前に僕は、シネの二文字でしか片付けることが出来ない屑野郎なのだ。


そうか、ならば、手が無ければ、脚がなければ、目が見えなければ、僕は、僕は、みんなに認めてもらえるのかもしれない。


僕は今日も、シャーペンを右手に持ち、自分の目玉にそのままぶっ刺した。


ぐぢゅぐぢゅ、と、目玉の肉の中を裂くように、無理矢理押し通した。

どす黒い血が、ドバドバと溢れてくる。


これで、これで、認めてもらえる。

だって、これなら、犬でもわかるだろ?


僕の欠けた心は、大量の血で満たされた気がした。




ひとひら


僕の目の前に一枚、桜の花びらがぴらぴらと回転しながら美しく舞い落ちた。


僕は突然、どうしようもなく胸が苦しくなった。

苦しくて、途方に暮れた。


僕は、生きてる幸せを感じたかった。噛み締めたかった。それだけなのに、それだけなのに。

何でこんなに、苦しくなるのだろう。

何もかも自分じゃない。

でも、自分だと認めざる終えないのだ。


桜の優しい薄桃色はとても、真っ直ぐで、素直で、僕にはあまりにも似合わない。


虚無感。

5月に散る桜は、僕を寂しくする。

僕は、暗い終わり無い迷路の中でひとりぼっち。

僕を、僕をどうか、独りにしないで。

あまりに寂しくて、息が出来なくなるくらい胸が締め付けられて、死んでしまう。


紙が千切れるように胸が痛むので、耐えきれなくて、僕は大声を上げた。

ひたすら、叫ぶ。叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

僕はずっとずっと永遠に連なる桜の木の道を、体の中の内臓を全部吐き出しそうになるくらい叫びながら、全力疾走した。僕の視界は涙でピンク色にぼやけた。

涙が落ちても、花びらが額をくすぐっても僕は構わず、ずっとずっと叫んだ


桜の花びらで埋まる道を、思いっきり踏んづけながら僕は、止まることなくずっと走っていった。



水色。

水色。

水色。

水色。


桃色が霞む、淡い水色。


何処を歩いても、どの建物に入っても、その水色はいつ何時、オーロラのように浮遊している。


溢れる水玉はプカプカと、弾けることもなく上へ上へ湧き上がる。


全てが最初に戻る。

全部全部、新しくて新鮮。


水色。



それは、夏が近づいてることを教えてくれるのだ。